大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成12年(ワ)10271号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 大澤英雄

同 小鍛冶広道

被告 藤代京佐

被告 東京管理職ユニオン

右代表者執行委員長 橋本忠治郎

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して一二〇万円及びこれに対する平成一二年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告藤代京佐は、原告に対し、八〇万円及びこれに対する平成一二年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告に対し、被告藤代京佐は別紙(一)記載の謝罪文を、同東京管理職ユニオンは別紙(二)記載の謝罪文を、それぞれ別紙(一)、(二)記載の各条件で作成して交付せよ。

四  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用はこれを一〇分し、その二を原告、その五を被告藤代京佐、その余を被告東京管理職ユニオンの負担とする。

六  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告に対し、連帯して二五〇万円及びこれに対する平成一二年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告に対し、被告藤代京佐は別紙(三)記載の謝罪文を、同東京管理職ユニオンは別紙(四)記載の謝罪文を、それぞれ別紙(三)、(四)記載の各条件で作成して交付せよ。

第二事案の概要

本件は、被告らが「セクハラを闇に封じるX興商」と題して、「X興商の子会社のN取締役には、数年前に女子事務員にセクハラ行為をした噂がありました」などと記載したビラを右会社と関連する場所一〇か所で配布するなどし、あるいは被告藤代京佐が訴外株式会社日本ジャーナル出版の発行する週刊誌「週刊実話」の取材に応じ、右雑誌の平成一二年三月三〇日号に右ビラと同内容の記事を掲載させた上右記事のコピーを配布するなどしたことにより、原告の名誉が毀損されたとして、原告が、被告らに対し、不法行為に基づき、損害賠償及び謝罪文の作成、交付を求めた事案である。

一  前提事実(証拠等によって認定した事実は末尾に証拠等を掲記する。なお、以下の出来事は、特段の断りがない限り、すべて平成一二年の出来事であるので、平成一二年を省略する。)

1  当事者

(一) 原告は、カラオケ機器の販売、リース等を目的とする株式会社X興商(以下「X興商」という)の取締役である。

X興商は、訴外株式会社X興商(以下「X興商」という)の一〇〇パーセント出資の子会社である(弁論の全趣旨)。

(二) 被告藤代京佐(以下「被告藤代」という)は、平成二年四月二〇日、X興商に入社し、湘南営業所課長、所長などを経て本部メディア事業部次長となったが、平成一二年一月二五日付をもってX興商を解雇された(弁論の全趣旨)。

被告東京管理職ユニオン(以下「被告組合」という)は、平成一二年三月から四月末ころにかけて、被告藤代が加入していた労働組合である。

2  被告らの行為

(一) ビラ及び記事のコピー配布行為(以下「被告らの本件街頭情宣活動」という)

(1)  被告らは、平成一二年三月二七日午後二時ころから午後二時二〇分ころにかけ、東京都内にあるX興商ビックエコー五反田店(以下「ビックエコー五反田店」という)前で、別紙(五)記載のとおり、「セクハラ問題を闇に封じるX興商」との見出しの下に、「X興商の子会社のN取締役には、数年前に女子事務員にセクハラ行為をした噂がありました。そのセクハラ事件とは、子会社の数年前の忘年会の最中、N取締役がT女子事務員をトイレに無理矢理連れ込みました。それを目撃していた男子社員が、数十分余も二人が出てこないので、同僚と相談し、心配なのでトイレのドアをノックしたところ、ドアが開き、泥酔したN取締役と目に涙したT女子事務員がでてきた、との話でした。T女子事務員は、恋人のA社員ともどもその後退職をしました」等の記載がされたビラ(以下「本件ビラ」という)を通行人に配布し、本件ビラと同一内容を拡声器を用いて放送した(甲二、三の1、2)。

(2)  被告らは、三月二九日午後二時ころから午後二時二〇分ころにかけてX興商ビックエコー神田小川町店(以下「ビックエコー神田小川町店」という)の店頭で、同日午後二時四五分ころから午後三時一五分ころにかけてX興商ビックエコー西新宿センター店の店頭及び近隣交差点で、三月三一日午後一時ころから午後一時三〇分ころにかけてX興商ビックエコー数寄屋橋店の店頭で、四月四日午後四時ころから午後四時三〇分ころにかけてビックエコー神田小川町店の店頭で、四月六日午後二時三〇分ころから午後三時ころにかけてX興商ビックエコー渋谷センター店(以下「ビックエコー渋谷店」という)の店頭で、四月七日午後二時四五分ころから午後三時一五分ころにかけてX興商ビックエコー新宿大ガード店の店頭で、四月一四日午後四時三〇分ころから午後四時四五分ころにかけてビックエコー五反田店の店頭で、四月一八日午後四時ころから午後四時四〇分ころにかけてビックエコー神田小川町店の店頭で、四月二八日午後一二時五〇分ころから午後一時一五分ころにかけてビックエコー神田小川町店の店頭で、合計九回にわたり前記(1) と同様に、本件ビラを通行人等に配布し、本件ビラと同一内容を拡声器を用いて放送した(甲二、四ないし八の各1、2、九、弁論の全趣旨)。

なお、被告らは、四月六日のビックエコー渋谷店の店頭で本件ビラ配布の際、後記(二)のとおり訴外株式会社日本ジャーナル出版(以下「日本ジャーナル出版」という)発行の平成一二年三月二〇日「週間実話」一九八頁及び一九九頁に掲載された記事(以下「本件記事」という、別紙(六)参照)をコピーして、本件ビラとともに配布した(甲二、八の1ないし3)。

(二) 被告藤代の週刊誌への情報提供行為(以下「被告藤代の本件情報提供行為」という)

被告藤代は、日本ジャーナル出版が発行する週刊実話の取材に応じ、週刊実話三月三〇日号一九八頁ないし一九九頁に本件記事が掲載された。

本件記事は、「重役にトイレでレイプされたOLの悲痛」、「カラオケのX興商でセクハラ騒動」の見出しの下に、前記(一)(1) で摘示した本件ビラの内容が紹介され、これに続いて、「ちなみに、この子会社とは(株)X興商で、N取締役は現在三八歳。セクハラ被害にあったTさんは、当時二三~二四歳ぐらいで「けっこう男好きのする、なかなかの美人」(元社員)という。」などの記載がされている(甲一〇)。

二  争点

1  被告らの本件街頭情宣活動が原告に対する名誉毀損に当たるか。

(原告の主張)

被告らの本件街頭情宣活動は、次の(一)ないし(三)のとおり、原告の名誉を毀損する。

(一) 本件ビラ及び記事の内容は、原告が女子従業員に対してセクハラを行ったとの事実を摘示するもので、本件ビラ及び記事を読んだX興商グループ関係者は、あたかも原告がX興商内でセクシャルハラスメント(性的嫌がらせ、以下「セクハラ」という)を行ったとの印象を持ち、原告の社会的評価を低下させることは明らかである。

(二) 本件ビラ及び記事が、原告をその対象としていることは、「X興商の子会社のN取締役」と、X興商との関係を示し、イニシャル表示をしていることからも明らかである。

右表現から、X興商グループにおけるイントラネット(企業内情報システム)により、X興商グループ関係者であれば、N取締役が原告であることが容易にわかる。

(三) 本件ビラ及び記事の配布は、「X興商の子会社のN取締役」が原告であることを容易に知りうる者の目に触れるよう、意図的にX興商の経営するカラオケ店前で行われている。

(被告らの主張)

被告らは、本件街頭情宣活動に際して、次の(一)ないし(三)のとおり、原告の名誉に十分配慮しており、その名誉を毀損していない。

(一) 本件ビラ及び記事は、「セクハラの問題を闇に封じるX興商」の見出しからもわかるとおり、X興商の企業体質を追及しているものであり、セクハラ問題の噂そのものを対象にしているものではない。また、本件ビラ及び記事は、セクハラをしたとされる対象者を伏せ字としているし、「X興商の子会社」といっても、X興商の子会社はX興商だけではないから、N取締役が原告であると特定することはできない。

(二) 被告らは、本件ビラ及び記事のコピーの配布場所を原告の勤務先がある神奈川県小田原市から遠く離れた東京都内に限っており、原告に対し、慎重な配慮をしている。

(三) 本件ビラ及び記事では、セクハラの真偽に関しては一切触れていない。

2  被告藤代の本件情報提供行為が原告に対する名誉毀損に当たるか。

(原告の主張)

被告藤代は、週刊実話編集部の取材に応じ、情報を提供することにより、原告がセクハラ行為に及んだとの印象を与える事実を不特定多数人の閲覧、購読に供させている。このような被告藤代の行為は、原告に対する名誉毀損行為に当たる。

(被告藤代の主張)

被告藤代は、週刊実話の取材に応じたが、記事の内容や記事にするかどうかには関与しておらず、記事にするかどうか、どのような内容にするかは全て取材した会社の判断に委ねられている。被告藤代が取材に応じたことと記事の掲載との間には因果関係がなく、本件記事について、被告藤代には責任がない。

3  被告らの行為について名誉毀損の成立阻却事由は存在するか。すなわち、被告らの行為が公共性及び公益目的を有し、かつ、その内容が真実であるといえるか。また、本件ビラ及び記事の主要部分について真実と信じるについて相当な理由があったか。

(被告らの主張)

(一) セクハラ問題は、女性の労働環境を考えると、社会的に重大な問題である。単なる噂話であっても、社内の複数の社員の話にのぼっている以上、看過することのできない問題であり、この問題をとりあげた被告らの行為は、公益目的を有している。

(二) X興商は、B(以下「B」という)に対し、セクハラの真偽を調査したにもかかわらず、Bが「N取締役」の被害者である旨指摘した被告藤代に対し、右調査結果を報告しなかった。

また、Bに対する調査結果において、被告らは事前にセクハラ事件の日時を特定していないにもかかわらず、調査結果では日時が特定されている。

このような事実はセクハラの噂に関わる事件の存在を示している。

(三) 被告藤代は、平成八年ころ、X興商湘南支店に勤務していたC及びDから、本件ビラ及び記事のセクハラ行為について、加害者が原告である旨の噂を聞いた。その噂の出所は、セクハラ事件を目撃した同支店勤務のE(以下「E」という)である。

被告藤代は、右噂についての事実調査をX興商に要望したが、X興商から、何らの報告もなかった。

右の事情から、被告藤代は右噂を真実と信じたのであり、そう信じたことには相当な理由がある。

(原告の主張)

(一) 原告がT事務員にセクハラ行為をしたということは、公共の利害と無関係である。被告らが本件各行為に及んだ主たる目的は、X興商と被告藤代との間の解雇問題を被告らに有利に解決するためであり、公益目的とは無関係である。

被告らの行為は公益目的を有するとはいえない。

(二) X興商が行った事実調査の結果、原告が、本件ビラ及び記事にあるようなセクハラ行為を行った事実は一切ないことが判明した。

(三) 被告らは、本件各行為に先立ち、本件ビラ及び記事の内容の当事者である原告及びBに対し事情聴取するなどの事実確認を行っていない。

被告らは、本件ビラ及び記事にかかれているセクハラの噂話が真実であるか否かについて、合理的かつ確実な資料、根拠を有していないから、右噂話を真実であると信じたことについて相当な理由を認める余地はない。

4  原告の被った損害額及び損害回復のために相当な措置は何か。

(原告の主張)

(一) 被告らの行為により、原告は単にX興商取締役としての信用を傷つけられたにとどまらず、一人間としての社会的評価を著しく毀損され、無形的損害を被った。被告らの名誉毀損行為によって原告が被った損害は二五〇万円を下らない。

(二) 更に、被告らの行為によって、原告の社会的評価は金銭賠償のみでは回復できないほど著しく低下したものであり、被告らより謝罪文の交付を受けた上、これを被告らの本件街頭情宣活動が行われたX興商ビックエコー各店舗やX興商の取引先等に配布する以外に、原告の失った社会的評価を回復する方法はない。

(被告らの主張)

争う。

X興商が、被告藤代の求めたセクハラ事件に対する調査要望に誠実に対応していれば、被告らは本件各行為に及ばなかった。その意味で、X興商の取締役である原告にも、被告らが本件各行為に及んだことに対し、責任の一端がある(過失相殺)。

第三争点に対する判断

一  争点1(被告らの本件街頭情宣活動の名誉毀損性)について

1  本件ビラ及び記事の内容について

被告らの本件街頭情宣活動の主なものは、東京都内にあるX興商ビックエコーの店の店頭で通行人に本件ビラ及び記事のコピーの配布並びに本件ビラに書かれている内容を拡声器で放送したことである。そうだとすると、まず最初に問題になるのは、本件ビラ及び記事の内容である。

本件ビラ及び記事の具体的な内容は、前提事実2(一)(1) 及び2(二)に摘示したとおりである。すなわち、本件ビラは、冒頭こそ「セクハラ問題を闇に封じるX興商」との見出しではあるが、上段に「X興商の子会社のN取締役には、数年前に女子事務員にセクハラ行為をした噂がありました」との記載があり、これに続いて、セクハラ行為の具体的内容が記載され、中段あたりには、「N取締役が女子事務員をトイレに押し込んだ真相は?」の見出しが記載されている。また、本件記事は、見開き中央に「重役にトイレでレイプされたOLの悲痛」とセンセーショナルで大きな見出しのもと、本件ビラと同様の内容を掲載し、さらに「この子会社とは(株)X興商で、N取締役は現在三八歳。」などと、本件ビラよりもより詳細に内容を伝えている。

以上によれば、本件ビラ及び記事は、噂話との部分はあるものの、これを読んだ者は、X興商の子会社のN取締役が社内で女子事務員にセクハラ行為に及んだとの印象を持つのが通常であり、したがって、本件ビラ及び記事は、X興商の子会社のN取締役の社会的評価を低下させているといえる。

2  そこで、次の問題は、X興商の子会社のN取締役が原告であると、特定、認識できるかという点である。以下、検討を進める。

本件ビラでは、AやBの文字を使用してある特定人を表現する場合と異なり、当該人物の姓のイニシャルを連想させるNの文字がを使用され、かつX興商の子会社の取締役という、具体的な表現を用いられている上に、続いて、「X興商の子会社のF社長」と、問題となっている子会社と読みとれる会社の社長名が記載されている。FはX興商の社長であり、X興商の取締役のなかでNのイニシャルがつくのは原告のみであるから、X興商の関係者は、X興商社内のイントラネットを閲覧することにより「N取締役」が原告であることを容易に知りうるといえる。更に、本件記事では、前記のとおり、N取締役はX興商の取締役であること、現在三八歳であることが明らかであり、X興商の関係者には、N取締役が原告であると容易にわかる。以上によれば、X興商の子会社のN取締役が原告であるとX興商の関係者に特定、認識できていると解するのが相当である。

3  最後に、前記前提事実によれば、被告らの本件街頭情宣活動は、いずれもX興商グループが経営するビックエコー各店の店頭でなされており、被告らの街頭での各行為について、X興商グループ関係者が見聞した蓋然性は高く、「公然性」、「不特定、多数の者に対し」という要件も充たしている。

4  以上1ないし3によれば、被告らの本件街頭情宣活動により、原告の社会的評価が低下し、その名誉が毀損されたとの原告の主張には理由がある。

二  争点2(被告藤代の情報提供行為の名誉毀損性)について

1  本件記事が原告の名誉を毀損するものであることは、前記一で判示したとおりである。問題は、前記前提事実のとおり本件記事の情報を提供した被告藤代に責任があるかという点である。

2  この点について、被告藤代は、取材内容を掲載するか否かやどのような記事として作成するかは、出版社が自らの編集権に基づいて決定するものであるから、情報提供者である被告藤代には右掲載についての責任はないと主張する。

しかし、情報提供者が、当該情報が事実に反し虚偽であることを知りまたは過失によって知らないで、自己の情報提供によりその内容にしたがった記事が掲載される蓋然性が高いことを予測し、これを認識しながら敢えて情報提供をし、かつ、右事実が掲載、頒布されれば記事の内容からある者の名誉が毀損されるに至ることを認識できるような場合には、情報提供者と記事掲載との間には直接的な因果関係があるというべきである。

これを本件についてみるに、被告藤代が提供し、本件記事の基礎とされた情報は、前記一1認定のとおり、東京証券取引所店頭登録会社の子会社の重役が女子事務員をトイレに無理矢理押し込みセクハラ行為に及んだというセンセーショナルなものであって、話題性、社会的影響の点などからも、週刊誌が取り上げ、記事として掲載する蓋然性が高いものということができる。そして、内容から、「N取締役」すなわち原告の社会的評価を低下させることは十分予測がつくことであり、被告藤代においても、これを認識していたものと推認することができる。また、被告藤代は、自己の提供した情報が事実に反し虚偽であること知らないことに過失があり、情報提供行為と記事の掲載との間には直接的な因果関係があるということができるが、この点についてそのように判断した理由は、名誉毀損行為に対する真実性の問題と関連するので、争点3において併せて論じることにする。

以上によれば、本件記事の情報を提供した被告藤代には責任があるということになる。

三  争点3(名誉毀損の成立阻却要件の有無)について

1  前記一のとおり、被告らの前記各行為は、原告の名誉を毀損するものといえるが、被告らは、本件ビラ及び記事の内容は、真実であるか、真実でないとしてもその主要な部分について真実と信じるについて相当な理由が存在するので、名誉毀損は成立しないと主張するので、その当否について検討する。

2  証拠(甲一、二、一四、一五、一八、乙一八の1、2)によれば以下の事実が認められる。

(一) 被告藤代は、当時社内に存在した噂を聞いたものの、原告にも、また、問題の当事者とされる女子事務員のBにも、摘示事実の真偽を確認しなかった。

(二) X興商が被害者と指摘されたBから事情を聴取したところ、Bは、原告から被告藤代が指摘するようなセクハラ行為を受けていないと回答した。

(三) 被告らがセクハラの現場を目撃したと指摘するEも、原告のBに対するセクハラ行為を目撃していない。しかも、被告藤代は、Eに噂の真偽を確認していない。

3  前記2によれば、被告らの本件街頭情宣活動、情報提供行為は、噂の真偽を確かめることなく行われたものであり、本件ビラ及び記事の内容となるセクハラ行為があった、すなわち真実であったということができないことは勿論のこと、被告らにおいて、右事実が真実であると信じるにつき相当な理由があったということはできないというべきである。したがって、被告らの各行為には名誉毀損の成立を阻却するような事由は認められず、この点についての被告らの主張は採用することができない。

四  争点4(原告の損害額及び損害回復のために相当な措置内容)について

1  損害額について

(一) 被告らの本件街頭情宣活動によって生じた損害

被告らは、本件街頭情宣活動を一か月余りの間に一〇回行っていること、活動の場所はX興商の経営するカラオケボックス各店の店頭であること、先に認定したとおり、被告らは、本件各行為をなすにあたってセクハラの被害者と噂される人物に対して事実関係を問い合わせていないなど何の調査もしていないに等しいこと、原告は、X興商の子会社の取締役という地位にあり、本件街頭情宣活動により受けた社会的評価の低下は大きいと認められること、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告が本件街頭情宣活動によって被った精神的損害は、一二〇万円と評価するのが相当である。

これに対し、被告らは原告にも過失があり、過失相殺されるべきであると主張するが、本件全証拠によっても原告に過失があったと認めるに足りる証拠はない。

よって、被告らは、原告に対し、連帯して一二〇万円を支払う義務があるというべきである。

(二) 被告藤代の本件情報提供行為によって生じた損害

被告藤代の本件情報提供行為によって原告に生じた精神的損害は、本件記事の文言、態様及びその影響並びに背景事情等諸般の要素を考慮すれば八〇万円と評価するのが相当である。

また、前記(一)で認定したのと同様に、被告の過失相殺の抗弁は理由がない。

よって、被告藤代は、原告に対し、八〇万円を支払う義務があるというべきである。

2  謝罪文の交付について

証拠(甲三の1、四の1、五の1、六の1、七の1、八の1、一〇)及び弁論の全趣旨によれば、被告らの本件各行為により、原告の名誉毀損の被害は相当広範囲に拡大しており、今なお、名誉毀損の状態は継続していると認められる。よって、被告らの本件各行為による名誉毀損の被害を回復するためには、被告らが本件各行為を行ったX興商ビックエコー各店舗やX興商の取引先等に別紙(一)、(二)の内容の謝罪文を配布する必要があると認められる。

よって、原告の被告らに対する謝罪文の請求は、別紙(一)、(二)の内容の限度で理由がある。

第四結論

以上のとおり、原告の被告らに対する請求は、被告らに対して連帯して一二〇万円、被告藤代に対して八〇万円の支払を求め、別紙(一)、(二)の謝罪文の作成、交付を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとする。なお、各謝罪文の交付についての仮執行宣言については、本件事案の性質上相当でないので付さないこととする。

(裁判長裁判官 難波孝一 裁判官 足立正佳 裁判官 富澤賢一郎)

別紙<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!